大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)12161号 判決

原告 社団法人福井県貸金業協会

右代表者理事 小澤家隆

右訴訟代理人弁護士 榎本恭博

被告 社団法人全国貸金業協会連合会

右代表者理事  瀬公邦

右訴訟代理人弁護士 滝田裕

被告  瀬公邦

板東利明

谷崎眞一

右三名訴訟代理人弁護士 滝田薫

長久保武

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告社団法人全国貸金業協会連合会(「全金連」)の理事である被告瀬公邦及び同板東利明並びに監事である被告谷崎眞一を解任する。

二  被告瀬、同板東及び同谷崎は、各自、被告全金連に対し、金三〇四万二〇〇〇円及びこれに対する被告瀬及び同谷崎については平成六年八月一八日から、被告板東については同年九月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求の原因

1(一)  全金連は、「貸金業の規制等に関する法律」(「規制法」)に基づき昭和四八年一一月一〇日に設立された民法上の社団法人であり、同じく規制法に基づき都道府県ごとに設立された四七の貸金業協会(「協会」)の運営に関する連絡、調整及び指導を行い、その適正な活動を促進することによりその業務の適切な運営を確保し、もって貸金業界の健全な発展と資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資することを目的として、規制法、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」等の規定を貸金業者に遵守させるための協会に対する連絡及び指導並びに主務官庁、関係金融団体その他に対する意見の開陳及び連絡等の事業を行うものである。

(二)  原告社団法人福井県貸金業協会は被告全金連の社員(会員)である。

(三)  被告瀬及び同板東は、被告全金連の理事(ただし、被告板東は、平成四年五月から平成六年五月二六日までは被告全金連の監事)であり、被告谷崎は被告全金連の監事である。

2  被告瀬、同板東及び同谷崎は、次のとおり定款一六条二号に定める解任事由に該当する違法行為をなした。

(一)(1) 被告瀬は、平成三年一二月一一日に開催された被告全金連の臨時総会において定款四条六号の規定を変更する旨の決議がなされなかったにもかかわらずこれがなされたかのように装ってほしいままに大蔵大臣にその旨の認可申請をし、平成四年五月二二日その旨の認可を受けた。

(2) 被告瀬は、被告全金連の会員から、総会決議に基づかない定款変更の認可申請の責任を追及されると、大蔵当局がその判断で定款の字句を修正したとの虚偽の弁解をした。

(3) 被告全金連の会員有志は、平成四年五月、理事選考委員会委員小泉智正名義で同委員会委員長であった被告瀬に対し、定款一三条二項により理事長が指名する理事の候補者を選定するよう進言したにもかかわらず、被告瀬は正当の事由なくこの進言を無視し、ほしいままに理事を指名した。

(4) 被告瀬は、平成五年五月一四日、被告全金連の通常総会において議長を務めたが、理事の解任については予め通知がなければ議案とできないにもかかわらず、同総会の招集通知書に記載されていなかった小泉智正理事及び山下恒治理事の解任の緊急動議を議案とし、これを決議させた。

(5) 被告全金連の会員の五分の一以上に当たる原告外一〇名の会員が、平成六年三月一六日、被告瀬に対し、被告全金連の臨時総会の開催を請求したのに、被告瀬は、定款二五条二項二号及び三項の規定に違反して請求を受けた日から三〇日以内に総会を開催しなかった。

(6) 被告瀬は、原告が平成六年四月二三日付書面をもって、被告全金連の会長である被告瀬に対し、同年五月二六日開催の通常総会において同人の解任を求める議題を提出したにもかかわらず、右議題を右会議の目的としなかった。

(7) 被告瀬は、被告全金連の会員二四名が平成六年一〇月三日被告瀬及び同板東の理事解任その他を会議の目的事項とする臨時総会開催の請求をしたのに、定款に違反し、請求があった日から三〇日以内に臨時総会の開催をしなかった。

(8) 被告瀬は被告全金連会長としての義務に違反し後記(二)記載の金員の支出を決定し、違法に被告板東にこれを受領させ、被告全金連に金三〇四万二〇〇〇円の損害を与えた。

(二) 被告板東は、監事として被告全金連の役員会へ出席し、意見を述べる権限を有するに止まり、その職務も会計監査及び業務監査に限定されるから、被告全金連の各種委員会、被告全金連と東京都貸金業協会との紛議の解決を目的とする会議及びその打合せ会、地区協議会との懇談会等へ出席すること、顧問弁護士の委嘱契約を締結すること、主務官庁への報告及び対応することについては、いずれも権限を有しないにもかかわらず、これらを行うために、出張の旅費、日当、宿泊費(以下「出張費」という)として合計三〇四万二〇〇〇円を違法に受領し、同額の損害を被告全金連に生じさせた。

(三) 被告谷崎は監事として(二)記載の金員の支出を阻止すべき義務があるのにこれを怠り、被告全金連に金三〇四万二〇〇〇円の損害を与えた。

3  2(一)(8)、(二)、(三)のとおり、被告全金連から被告板東に支給された出張費は違法なものであり、被告板東は違法にこれを受給し、被告瀬は被告全金連の会長としてその支給の決定をし、被告谷崎は監事として違法な支出を阻止すべき義務があるのに、これを怠って、出張費相当額の損害合計三〇四万二〇〇〇円を被告全金連に与えたものであり、被告瀬、同板東及び同谷崎はこれを各自被告全金連に賠償すべき義務がある。

4  よって原告は、社団法人として組織、運営、社員の権利が株式会社と類似する被告全金連につき、商法二五七条及び二八〇条の類推適用により被告瀬、同板東及び同谷崎の解任を求め、並びに、商法二六七条及び同二八〇条の類推適用により被告瀬、同板東及び同谷崎に、各自、被告全金連に対し損害賠償金三〇四万二〇〇〇円及びこれに対する被告瀬及び同谷崎については、平成六年八月一八日から、被告板東については、同年九月五日からそれぞれ支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  争点

被告らは、被告瀬、同板東及び同谷崎が解任事由あるいは損害賠償の責任原因となるような違法行為を行ったことはないとして、請求原因事実を争うほか、民法上の社団法人の理事・監事の解任の訴え及び理事・監事に対する社員の代表訴訟については、これを認めた規定がなく、商法二五七条、二六七条及び二八〇条を類推適用する根拠もないこと、被告板東は平成六年一一月二五日理事を辞任したので被告適格がないこと等を理由として、本件訴えの却下を求めている。

第三本案前の争点に対する判断

一  形成訴訟である取締役・監査役解任の訴えや法定訴訟担当の一種である株主代表訴訟と同様の制度を、民法上の社団法人の理事・監事について採用するかどうかは、もっぱら立法政策の問題というべきであって、法人としての性格や組織・機関の構成等も株式会社とは著しく異なる民法上の社団法人に、商法二五七条、二六七条及び二八〇条を類推適用することは困難であるというほかない。違法行為を行った理事・監事の解任や、その違法行為から生じた損害の回復について、民法は、総会等による自律作用と主務官庁による監督権の行使に委ねているものと解すべきであり、右自律作用や監督権の行使が十分に機能しない場合があり得るからといって、そのことだけで直ちに右類推適用が相当とされるものではない。

原告は、学校法人の理事会等の決議無効確認の訴えの適法性及び商法二五二条の類推適用の余地を認めた最高裁判例(最判昭四七年一一月九日民集二六巻九号一五一三頁)を援用するが、法人の対内的・対外的法律関係の基礎となる機関の決議の有効性について司法審査を認め(このことは、同時に、法人の管理運営に参画するという社員の基本的権利を保護し、団体の自律作用の発揮を保障することにもなる)、その判決の効力拡張の余地を認めることと、理事・監事の解任の訴えという形成訴訟や、法人に属する権利の行使を社員に許す訴訟を明文に基づかないで認めることとを、同日に論じることはできない。

二  したがって、本件訴えはいずれも不適法であるから、却下を免れない。

(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 本間健裕 棚橋哲夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例